全数調査とは,母集団の全数を調査対象とする悉皆調査のことである.しかし母集団のずべての要素を回収できるわけではない.
大きな母集団では全数調査は予算と時間がなくて実施できないことが多い.日本全体のような大きな母集団の全数調査は国勢調査のみである.国勢調査は全数調査だが回収率は100%ではない.

総務省は平成7年の国勢調査から回収できない対象者数の記録をとりはじめた.法的に回答を義務付けられた国勢調査(統計法第4条)においてさえ回収率が低下している.

聞き取り 郵送回収 未回収 総世帯数
平成7年 254,484 55,597 198,887 44,107,856
平成12年 1,011,695 200,489 811,206 47,062,743

「聞き取り」とは,国勢調査の調査期間中,不在等のため調査員が調査票を回収できない世帯に関して,国勢調査令(昭和55年政令第98号)第9条第2項の規定に基づき,「氏名」「男女の別」「世帯員の数」の3項目についてその世帯の世帯員以外の人から「聞き取って」調査した件数である.調査期間中に対象者にアクセスできないことはあり,そのことが回収率100%の達成を不可能にしている.
「郵送回収」とは,「聞き取り」した不在宅に,後日でもいいからと調査票への記入・返送を依頼して置いてきた調査票を郵送で回収できた数である.「未回収」は「聞き取り」と「郵送回収」の差である.「未回収」については世帯員数・氏名・性別の3項目しかない.
1995年から2000年を比較すると.「聞き取り」件数は4倍に増えて100万を超えた.全世帯の2.15%である.通常の世論調査なら極めて高い回収率ということになる.全数調査とはいっても,2.15%程度ならほとんど影響はない.国勢調査区を閲覧すると,東京などでは,1調査区に1世帯しかない場合もある.地図を見るとそこは公園であった.公園に住みついた浮浪者かと思われる.
どんな調査にも,精度というものがある.この「聞き取り」件数は都道府県が総務省に提出するのだが,その一覧表をみると4つの自治体の数字は百の位でまるめてある.数十件程度は誤差として扱っているのであろう.几帳面な自治体ばかりでもないようだ.
「聞き取り」が最も多いのは東京都である.最も少ないのは高知県である.おおむね大都市をかかえる自治体が多いが,必ずしも都市化と線形関係にはないところに自治体の事情・性格が出ている. 昭和20年(1945年)の国勢調査など,よく実施できたものである.敗戦の年である.焼跡・闇市・浮浪者・死者・戦死通知の来ない家族・・・.しかし,あの頃のほうが国家による「全数調査」はまだ容易だったかも知れない.