<SSPSSに書いた文章>
ついに「世界の狩野」が本を書き始めましたね.単純な例からはじめて,しだいに複雑な場所へと同じ歩幅で読者をつれていく.デスマス調の文体が速度を抑制するためにうまく作用している.1行の数式ですませず言葉を費やす.
個人的には,多母集団モデルに1章さかれたことが喜ばしい.因果モデルだけでなく
(1)男女間や年代間やブランド間で潜在変数の平均値に差はあるのか
(2)昨年調査と今年とで因子構造は同じといえるのか
(3)構造は同じでもパス係数は変化したのではないか
などを調べたい仕事は多い.
いくつか興味ある言及:
◎順序尺度の離散変量を連続変量とみなして分析する場合
◎母数推定法はいろいろあるけれど最尤法がよい(無難)
◎修正指標でモデル修正したあとは統計的検定は使えない
◎適合度の理論は脆弱.n=数百ならχ2乗,千以上ならGFI
もっとも驚いたのはいちばん最後に書かれたこの1行:
◎共分散構造分析ソフトウエアEQSのユーザーサポートを務める
こういうところが狩野氏を単なる抜群の秀才から区別しているエトワスか.
あらためて最近10年の共分散構造分析(邦文)参考書を発行順に眺めると:
1. 奥田和彦,阿部周造(1987)『マーケティング理論と測定−LISRELの適用』中央経済社
2. Browne, M. W. (1988)「共分散構造」( Hawkins, D. M. 編著 『多変量解析の理論と実際』MPC[医学統計研究会訳],所収)
3. 柳井晴夫,繁桝算男,前川眞一,市川雅教(1990)『因子分析−その理論と方法−』朝倉書店
4. 白倉幸男(1991)「LISREL:リズレルモデル」(三宅一郎,山本嘉一郎,垂水共之,白倉幸男,小野寺孝義『新版SPSS X V 解説編2』東洋経済新報社,所収)
5. Johnson, R. A. & Wichern, D. W. (1992)『多変量解析の徹底研究』現代数学社(西田俊夫訳)
6. 豊田秀樹(1992)『SASによる共分散構造分析』東京大学出版会
7. 豊田秀樹,前田忠彦,柳井晴夫(1992)『原因をさぐる統計学−共分散構造分析入門』講談社ブルーバックス
8. 服部環,海保博之(1996)『Q&A心理データ解析』福村出版
9. 狩野裕(1997)『AMOS, EQS, LISRELによるグラフィカル多変量解析−目で見る共分散構造分析−』現代数学社
こうしてみると共分散構造分析ソフトウエアの主な選択肢は5つですか:
(1) AMOS [SPSS]
(2) CALIS [SAS ]
(3) EQS
(4) LISREL
(5) SEPATH [STATISTICA]
本書の3つがパスダイアグラマ搭載ソフト.私は GUIはAMOSが快適だと感じました.とても充実している.最近,AMOSでパス図上の変数に日本語を表示する方法も発見しました.一方,数理的にはSEPATHが最も先行という評判.CALISは多母集団モデルを分析できない.EQSは潜在変数得点を計算できない(実現予定はあるらしい).日本語の参考書が出版されていないのはSEPATHだけだけれど,日本語のマニュアルがあるのもSEPATHだけ.サポートはEQSか.私はEQSのAGFIのバグを伝えたことがあるのですが,すぐに修正されリリースが更新されたので驚きました.開発者の興味が持続している.
1. 目次 2.2.3 LIEREL --> LISREL
p.58 : 標準化されていいる -> されている
p.143: 表4.14の係数の添え字が一部逆(λ23 -> λ32)など
p.211: 表6.10「LISREL:分析結果」のモデルAとモデルBが逆
豊田秀樹氏による書評(fpr)
堀啓造氏による書評(fpr)
2000.6 「AMOS, EQS, LISREL によるグラフィカル多変量解析」は絶版!?
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